「これはなんなの」
「スペイン産の水飲み壺でございます。ボティーホという名のものでございます」

「ふくらみのぐあいが素朴でいいわね。もっとくわしい説明をうかがいたいわ」
「かしこまりました」
 主人は店の一隅の台の上の電話機に歩みより、いくつかつづけて押
した。それから、電話機の横のボタンのひとつを押す。すると、店の壁にはめこま
れたスピーカーから、若い女の声による説明が流れはじめる。
〈ボティーホはスペインのアンダルシア地方で作られております。この地はアフリ
カに近く、古くはアフリカからイベリア族がここに移住bioderma 卸妝水して国を作り、その後フェ
ニキア人が、つづいてカルタゴがその支配をうばい、またジプシーが訪れ……〉
 その地の歴史から風土へと説明がつづく。この声は民芸品輸入組合協会の本部か
ら送られてくるものだ。そこへの電話番号をボタンで押し、さらに商品の番号を押
す。そこのコンピューターはそれに応じ、ただちに録音テープの声を送りかえして
くれるのだ。うろおぼえや知ったかぶりのあやふやさは、どの店からもなくなって
いる。
 スピーカーで拡大されたその説明には、ギターによるスペインの民謡のメロディ
ーが加わった。哀愁をおびながらも明るい、情熱のこもったリズム。
〈……これをお部屋の棚にさりげなくお飾りになったらいかがでしょう。エキゾチ
ックなムードが発散し、静かにひろがり、あなたの胸のなかに、やすらぎと楽しさ
をもたらすこと辦公傢俱でございましょう。また、ご来客のかたの目には……〉
 お客の心のなかに買いたいとの欲求をめばえさせ、それを巧みに育てあげるよう
な口調だった。中年の婦人客の目は品物にひきつけられ、ついにそれを手にした。